軸装や額装も美術品は、時代が経つとシミやカビだけではなく表装や額装そのものに傷みがきます。もちろん丁寧に扱ったとしてもです。お茶のお道具などは直さないのが原則ですが一般的には綺麗にしたいものです。
軸の洗いに出す時、せっかくなので新調しようとする時のおおよその金額(相場)をお話しします。
東京近郊の職人さんの店じまいラッシュのことはお話ししました。日本全国それぞれの街に優れた職人さんがいらっしゃるでしょう。お店はタウンページやネットで調べれば出てきます。しかし、職人さんの技量もわからずに、何十万、何百万さらには一千万を超えるような美術品をお願いできるか心配でしょうか。まずそのあたりの話をします。
お住いの地域に美術倶楽部という美術商の組合組織があればそこでご相談される事をお勧めします。東京でしたら東京美術倶楽部という組織です。もしわからなければ東京美術倶楽部にお住いの地域の美術倶楽部をお聞きになっても良いかと思います。
美術品の洗いはデリケートです。強く洗ってしまうと作品の色落ちや紙が白くなり過ぎて作品の印象を変えてしまう事がよく起こります。仕上がって愕然とする事もあります。
元には戻りませんので危険を回避する為にも経験豊かで文化財の修復に理解のある職人さんを紹介してもらう事をお勧めします。一人でされている方も居ますし、職人を抱えてたくさんの仕事に対応できるところもあります。
そういった職人さんのなかで、美術商が懇意にしているところが安心です。
洗い裏打ち張り替えの基本料金は、着物の洗い張りと同じくらいです。基本的には高額の作品の方が高いです。だいたい洗いで5万円からです。基本作業というのは、軸をばらして作品はそれほど手をかけずに裏打ちをし直して組み立てるという作業です。
作品にシミや破れなどがあったり表具の一部を替える必要があったりとオプションの手間が増えると高くなります。経験上ちょっと面倒な洗いは12万円ほどです。
上村松園のような美人画の顔(胡粉:ごふん:貝殻の粉末の白い絵具)にシミやカビが出てしまったり、金箔の上にカビが出て箔の光沢が落ちたりした場合は要相談になります。断られる場合もあるほど困難で、完全には無理な場合もあります。
やはり、ある程度定期的に飾ることや湿度管理が大切になります。
表具の新規制作を頼む場合の予算は最低で10万円から15万円位が目安です。普通の表装の場合で材料費が5万円かかると職人さんが言ってました。
使い捨ての熱プレス軸装は2万程度で仕立てるところもあります。それと比べると「高いんだな」と思われるかもしれませんが直しながら使っていける表具はこのくらいの値段からになります。
いい表具は掛けていて癖が出ません。キリッと姿がよく床の間を飾ってくれます。
とても品の良い金蘭を使った高価な表装です。三段表装と言われるもっとも一般的な生地の組み方です。
作品(本紙)の天地に細く布が組んであります。これを「一文字」と言い、一番高価な布を使い軸の印象を左右する大事な布です。作品を取り囲んでいる布を「中廻し」と言います。一文字と中廻しで良さが決まります。中廻しを挟んで上の布を「天」下の布を「地」天の切れに2本垂れ下がっているのが「風帯:ふうたい」と呼びます。
このような素晴らしい軸装が額に装いを替えられて捨てられてしまうのです。残念なことです。ちなみにこの軸は名人「中村鶴心堂」ですね。