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美術品の相続|自分の代で売却を考える前に

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コレクターの方で、美術品を子供に相続させるか、自分の代で売却処分してしまうか、迷われる方も多いのではないでしょうか。

美術市場は、一部、現代美術の作家が高騰していますが、日本の美術の中心として明治、大正、昭和に活躍された巨匠の作品は、作品価格は低迷しています。しばらくこの状況は変わらないかもしれません。私が、美術業界に入った30年以上前の方が高かった作家がたくさんいます。時代の波に飲まれていくような作家たちではありません。横山大観や川合玉堂さえ安いといえます。ましてや、小林古径、安田靫彦、前田青邨など驚くほどの低価格で落札されています。吉田善彦など、悲しい限りです。

次の代に美術品を残そうとお考えでしたら今この底値の時代にコレクションの充実をお勧めします。日本画の相場の中心となっている横山大観の作品でも、相場感の3割から5割安です。横山大観の作品でさえ、それほど安くなっています。通常の相場とは都内の一軒家の価格に準じています。昔から大観一幅家一軒と言われていました。

今は、買い手市場です。素晴らしい作品を選んで購入できる素晴らしいチャンスです。コレクターの方々にとっては、お求めになった時より安くなってしまって、がっかりされている方もいらっしゃるかもしれません。

美術品も時代の需要の波があります。近代美術の市場に参入してくれるコレクターが減ってしまっているので需要が薄い状態が続いています。今、現代美術は世界の趨勢で勢いがあります。しかし、時代は常に揺り戻され、ふるいにかけられ、次に時代へと移行してきました。

横山大観や梅原龍三郎を中心とした近代日本の美術は、ふるいにかけられ残るべき作家だけが残っています。永遠に美術史に刻まれていく作家たちです。作品が増えることはありませんし、バブル期に市場に供給された作品はまだ市場にあります。

つまりは、比較的優品がまだ購入可能なのです。近代美術が安すぎるのは過去の相場の経緯から明らかです。必ず上昇局面がきます。

素晴らしいコレクションを築いたり、充実させるには、またとない時代です。

美術館の存在、美術品と相続税との関係、投資としての美術品の地位、正しい美術への敬意と意識。それらが、正しくリセットされお金の流れが生まれれば、その時、真っ先に脚光を浴びるのは、今、低迷を余儀なくされている巨匠の作品たちです。絵に賭ける意気込みが、今と違った時代の作家たちですから悪いはずがありません。

これからも時代は変動していくでしょうし、その時代を反映した素晴らしい芸術品が産みだされていくでしょう。しかし、その芸術は室町時代や江戸時代や明治・大正・昭和の時代の芸術に取って代わるというものではありません。

芸術は、時代を超え、並列に存在します。今この時代、私たちは、美術館で、音楽ホールで、舞台で、さまざまな国のさまざまな時代の芸術にふれることができます。新しい表現が、それまでの表現を凌駕して、朽ち果てさせるわけではありません。

日本近代の美術品を所蔵されている方や、お金に余裕のある美術愛好家の方は収集して後世に残していただきたいと思います。相続税も重要な美術品対しては優遇措置の方向です。文化庁方針過去記事

かつて、麻布自動車という会社があり葛飾北斎の作品を肉筆を含め多く収蔵していました。倒産によりコレクションは海外ークションに出品されました。美術品の収集は時間と熱意と資金が必要です。散逸は一瞬です。安宅産業の安宅コレクション、東洋バルブの北澤コレクション、リッカーミシンの平木コレクションなど民間がコレクションを移譲され現代も公開されている幸運なケースもあります。最近では、運慶の仏像の件もありました。国は購入できなかったんです。

日本の美術作品を高く評価して浮世絵や若冲を集めてくれていた方は外国人です。

日本人が恥ずかしくなるほど、日本の持つ美点を認めてくれる外国人がいる反面、日本人は無関心という状況をどう考えるべきか悩みます。

オランダのフェルメールのように、イタリアのダビンチのように、芸術家は国の平和的象徴の顔だと思います。

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